東京・世田谷区にある「洋菓子会館」にて、公益財団法人 東京都洋菓子協会様主催の定期講習会が開催されました。講師は、パティスリー・ユウ・ササゲ(世田谷区南烏山)の捧雄介シェフです。
捧シェフは新潟県三条市の出身。「ルコント」でフランス菓子の修業を始め、複数の店を経て2010年に「パティスリー エ カフェ プレジール」のシェフパティシエに就任。2013年、自店を開く際には「一度リセットして、フランス菓子の伝統に立ち返る」と語った、伝統を土台に置く作り手です。香り、食感、味わい、見た目——そのバランスを緻密に組み立てるお菓子で知られています。
目 次
- ブルーベリーとベルガモット、「コントラスト」の組み立て
- 冬の定番菓子を再構築「フォンダン ショコラ エテ」
- 「イメージしているものができる」シェフが試した、新しいチョコレート
- すぐ実践に活かせる、理由まで語る質疑応答
- 名前の通りの「コントラスト」、夏らしく軽い「エテ」


ブルーベリーとベルガモット、「コントラスト」の組み立て
ブルーベリーとベルガモット、
「コントラスト」の組み立て
捧シェフがこの講習会に登壇するのは、6年ぶりのこと。あいにくの雨にもかかわらず、会場は製菓関係者やお菓子の愛好家で埋まり、開始前から熱気に包まれていました。
そんな期待のなかで最初に披露されたのが、一品目の「コントラスト」です。パートシュクレとクレームフランジパーヌの土台に、ブルーベリーのジュレとムース、ベルガモットのムースを重ねた生菓子です。ムースベルガモットとグラサージュブランには、NKガーナホワイトフランス34を使っていただきました。
このお菓子のカギは、ベルガモットの扱いです。ムースにはベルガモットのピューレとオイルを併用し、柑橘の香りをしっかりと立たせます。ただ、そのままでは香りが強く出すぎる。そこで合わせたのが、ピューレとほぼ同量のヨーグルト(無糖)でした。ヨーグルトの酸味とコクが香りを受け止め、ベルガモットらしさを残しながら全体のバランスが取れる——この着地点を見つけるまでの調整は「すごく難しかった」と振り返ります。

コントラスト
冬の定番菓子を再構築「フォンダン ショコラ エテ」
冬の定番菓子を再構築
「フォンダン ショコラ エテ」
二品目は「フォンダンショコラ エテ」。焼いてカットするとチョコレートが流れ出す、寒い季節に人気のお菓子を、夏向けに再構築した一品です。
興味深いのは、その発想でした。中に仕込んだガナッシュは焼くと溶けて、生地より重いため下へ沈みます。沈んだガナッシュが底に溜まると、型から漏れ出したり、底がべたついてきれいに焼き上がらなかったりする——通常のフォンダンショコラづくりでは、避けたい状態です。
ところが捧シェフは、これを逆手に取ります。ガナッシュが沈んだあと、真ん中に残る空洞。冷やしてから、そこへパッションとエキゾチックのジュレを流し込むのです。冷やしたあと、その空洞にパッションとエキゾチックのジュレを流し込む。夏向けの「エテ(été=夏)」の名の通り、チョコレートに南国のフルーツを合わせる構成です。
また生地づくりのポイントは、メレンゲを「立てない」ことでした。グラニュー糖を一度に多く加え、あえてゆるいメレンゲにします。「できるだけ気泡を入れたくない」ためで、しっかり立てると生地が浮きすぎ、食感も変わり、ジュレが生地に吸われてしまうのだそうです。
仕上げには、ホワイトチョコレートをベースにバナナピューレを合わせたシャンティーバナーヌ(こちらにもNKガーナホワイトフランス34を使用)と、ココナッツのマカロンが重なります。


フォンダンショコラ エテ
「イメージしているものができる」
シェフが試した、新しいチョコレート
フォンダンショコラの生地とガナッシュには、弊社の新しい次世代チョコレート「ショコラ・ヌメロ・ドゥ ノワール3959」をお使いくださいました。
講習の途中には、弊社からこのチョコレートについてご紹介する時間をいただき、ベネズエラ産を中心としたカカオマスと、ココアバターの性質を再現した油脂を合わせた設計であることをお伝えしました。
このチョコレートについて、捧シェフは使ってみた実感を語ってくれました。
「チョコレート本来の味がありつつも、他の素材の味を邪魔しない」。
ジュレやクリームなど複数の要素を重ねるお菓子では、それぞれの素材が生きたままバランスが取れる——この特長を、シェフは設計の自由度として捉えます。
「使い方次第では、自分がイメージしているものができるんじゃないか」「いろいろな材料をうまく組み合わせながら使っていくのは僕らの仕事。一つの気づきになった」という言葉が印象に残りました。
ショコラ・ヌメロ・ドゥの使用感や特長を、受講者に分かりやすく伝える捧シェフ
すぐ実践に活かせる、理由まで語る質疑応答
すぐ実践に活かせる、
理由まで語る質疑応答
会場からは質疑が絶えませんでした。フランジパーヌにクレームパティシエールを入れる理由を問われれば「風味と保湿性」と答え、生地をしっかり固めてから焼く理由には「固めずに焼くと浮き方が変わって食感も変わり、ジュレを吸ってしまう」と、どの質問にも理由まで含めて具体的に答えていきます。
自店のクレームパティシエールの配合を尋ねられ、その場でそらんじて答える場面もありました。なかでも興味深かったのが、クレームパティシエールに薄力粉ではなく強力粉を使う話です。グルテンの強い強力粉なら、同じ硬さに仕上げるときに粉の量を減らせる。その分、粉っぽさが軽減され、クリームの味わいが表に出るのだといいます。
説明はどれも具体的かつ端的で、調理中の状態がとてもイメージしやすい。理由までわかるから、それぞれが持ち帰って試せる——それがこの日の会場全体の実感だったように思います。

名前の通りの「コントラスト」、夏らしく軽い「エテ」
最後に2品を試食させていただきました。
「コントラスト」は、その名の通りメリハリのある食感と味わい。ブルーベリーの酸とベルガモットの香りが層ごとに切り替わり、バランスを緻密に設計するというシェフの菓子づくりが、そのまま伝わってきます。
「フォンダンショコラ エテ」は、南国フルーツの味わいが主役に感じられる、夏にぴったりな軽やかな仕上がりでした。チョコレートは、いい意味で全面に出すぎない。素材の味を生かし合うという言葉がよくわかる一品でした。
この日、助手を務めたのは同店の若手スタッフ。閉会の挨拶では「助手として立つのは今回が2回目。まだ20歳、3年目として頑張っているので、また是非来てください」と初々しく語りました。伝統に根ざしながら、素材の組み合わせを一つずつ設計していくシェフのもとで、次の世代が育っている——そんな景色も垣間見えた講習会でした。捧シェフ、東京都洋菓子協会の皆様、ありがとうございました。




