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Sep 29, 2026
 

【講習会レポ】理想から逆算する。
当たり前を問い直す酒井先生のお菓子

酒井雅秀先生(日本菓子専門学校) ×  日新化工[ 東京都洋菓子協会 定期講習会 ]

原材料や人件費が上がり続ける今、お菓子づくりのどこにこだわり、どこを見直すのか。そんな問いを投げかける講習会が、公益社団法人 東京都洋菓子協会様の主催で、世田谷区の洋菓子会館にて開かれました。講師は、日本菓子専門学校で洋菓子専任教師を務める酒井雅秀先生です。
酒井先生は同校を卒業後にフランスへ渡り、ニース、バスクなど南仏を中心に修業を積みました。帰国後は母校の教壇に立ち、東京都洋菓子協会 技術指導部委員、日本洋菓子協会連合会 公認技術指導委員も務めています。ジャパン・ケーキショー東京では、2012年のコンフィズリー部門 大会会長賞をはじめ、チョコレート工芸部門や米粉を使った焼き菓子部門などで数多く入賞しています。

目 次

  • ザクッとした食感に仕掛けあり「キューブ N°2」
  • 「目指すお菓子から逆算する」酒井先生の菓子づくり
  • チョコレートの味をまっすぐに「クラウン3959」
  • 焼き菓子でも活きるショコラ・ヌメロ・ドゥ
  • こだわりと働きやすさ。指導者が見つめる業界の未来
  • 食感と香りが重なり合う3品
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ザクッとした食感に仕掛けあり「キューブ N°2」

ザクッとした食感に仕掛けあり
「キューブ N°2」

この日ご紹介いただいたのは「オヴァル」「クラウン3959」「キューブ N°2」の3品です。

「最近は、今までやってきたものを改めて見つめ直すことが増えた」と話す先生のお菓子は、どれもあえてシンプルな構成です。構成がシンプルな分、いつもの作り方との違いや、チョコレートそのものの味わいに気づきやすい、というねらいです。

最初に取りかかったのは、シュトロイゼル、マルサラワインに漬けたイチジク、チョコレート生地、クリームチーズを重ねた焼き菓子「キューブ N°2」です。

シュトロイゼルには二つの工夫があります。
一つは、砂糖の一部を精製度の低いカソナードに置き換えたことです。クリアな味わいよりも、少し雑味を含んだほうがお菓子に深みが出るといいます。
もう一つは、粗挽きの粉「アモーレ」を使ったことです。ザラッとした粗さが、食べたときのザクッとした食感を生みます。見た目は見慣れたシュトロイゼルでも、食べると「いつもと違う」。そんな小さな驚きで、食べる人の興味を引くのがねらいです。

チョコレート生地は、バター150gに対して全卵140gと水分の多い配合です。そのため乳化が大きなポイントになります。先生はバターとチョコレートを先に合わせ、そこに卵を加えていきました。こうすると明らかに乳化しやすくなるのだそうです。

パウンドケーキ類は、作ってすぐに食べるものではありません。贈り物になれば、いつ食べられるかもわかりません。乳化が不十分だと分離した水分が劣化の原因になるため、「粉を入れれば戻る、という考えはやめなさいと学生に伝えています」と話されました。

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キューブ N°2

「目指すお菓子から逆算する」酒井先生の菓子づくり

「目指すお菓子から逆算する」
酒井先生の菓子づくり

講習を通して先生が繰り返し語ったのは、菓子づくりの考え方です。

「こういうお菓子を目指したい、こういう食感にしたい。そうすることで、じゃあ何をすればいいのかが見えてくる」

目指す状態が決まれば、立て方や合わせ方、材料選び、温度が自然と決まっていきます。材料の特徴や製菓理論も、そこに結びついていきます。反対に、「あの人がこうやっていたから」と手順だけまねても、その理由を知らなければ意味がありません。教える側も、なぜそうするのかを説明できなければならない、とおっしゃいます。

例に挙げられたのが、紅茶やコーヒーを抽出して炊くアングレーズです。セオリーではパッセ(こす作業)を2回行います。でも、1回で仕上げても苦みやえぐみが出ず、おいしく食べられるのであれば、1回のほうが効率的です。固定観念にとらわれず、商品として問題がなければ積極的に取り入れる。穏やかな口調で、とても客観的に語られる姿が印象的でした。

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チョコレートの味をまっすぐに「クラウン3959」

チョコレートの味をまっすぐに
「クラウン3959」

二品目は「クラウン3959」です。使用したチョコレートは、「ショコラ・ヌメロ・ドゥ ノワール3959」。チョコレートの味そのものを前面に出すため、ガナッシュには余計なものを何も加えていません。

「ショコラ・ヌメロ・ドゥは、乳化しやすく作業性がいい。日頃チョコレートを使っている方は、試していただくと違いがわかると思います」


冷凍で固めたガナッシュに、温度を少し低めにしたグラサージュをかけます。垂れながら部分的に固まっていく表情が、王冠のようなシルエットをつくります。

その上に絞るのは、自家製のプラリネです。市販品はなめらかになるまですりつぶしたものがほとんどですが、先生はあえて粒を残します。口のなかで広がる粒の食感が楽しいからです。自分で作れば、こうした食感も思いのままに調整できます。

一方で、いまのお店では時短が求められ、自家製の素材を仕込む余裕はなくなりつつあります。だからこそ学校で経験させたい、と先生は話します。授業では自家製と市販品を食べ比べさせ、手間をかけた分の風味の違いを実感させているそうです。

「作り方を知っている、作ったことがある。それだけでも自分にとってプラスになると思っています」

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クラウン3959

焼き菓子でも活きるショコラ・ヌメロ・ドゥ

焼き菓子でも活きる
ショコラ・ヌメロ・ドゥ

講習の途中には、弊社からこのチョコレートをご紹介する時間もいただきました。ベネズエラ産を中心としたカカオマスと、ココアバターの性質を再現した油脂を合わせた設計であることをお伝えしています。

先生が特に評価してくださったのは、焼き菓子での使い心地です。
「もともとの配合のチョコレートを置き換えただけですが、思い描いていた味そのままに仕上がります」

原材料費や人件費の上昇が続くなか、既存のレシピはそのままで置き換えられる。私たちにとって心強いお言葉をいただきました。

こだわりと働きやすさ。指導者が見つめる業界の未来

こだわりと働きやすさ。
指導者が見つめる業界の未来

先生は洋菓子業界を取り巻く環境に触れました。原材料費、光熱費、人件費がいずれも上がっていて、価格の考え方や作業効率の見直しは避けて通れない、というお話です。

「自分が社会に出たときと、今の働き方は本当に変わっている」

自分の作るお菓子を守り、理想を追求することはもちろん大切です。ただ、お菓子は一人でつくるものではありません。手間をかけすぎれば、一緒に働く若手がついてこられなくなります。こだわりすぎても、若い世代に寄りすぎても、業界は発展しない。このさじ加減に、いま多くのオーナーが苦労しているのではないかと話します。

最近では、パティシエの方から「今の学生はどうですか」と聞かれることも増えたそうです。長年、学生と向き合ってきた先生だからこそ、働きやすい環境を整えることも洋菓子業界の発展には欠かせない、という言葉に重みがありました。

食感と香りが重なり合う3品

最後に3品を試食させていただきました。
「キューブ N°2」は、ナッツのジャリッとした食感がおいしいアクセントでした。

「クラウン3959」は、ヘーゼルナッツのコクでチョコレートの深みがぐっと増し、チョコレートの香りとも華やかに調和していました。

秋の落ち葉をイメージしたチョコレート細工を添えた「オヴァル」は、スフレというより、テリーヌショコラのようななめらかさです。底のパリッとした食感も楽しめます。口に入れるとまずムースの軽さと香りが広がり、次に生地のどっしり感、最後に濃厚なカカオ感が追いかけてきます。層ごとに移り変わる味わいが印象的でした。

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オヴァル

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この日、会場には先生の教え子である学生さんたちの姿もありました。偶然にもこの日は酒井先生のお誕生日で、閉会の際には会場から大きな拍手が送られました。

基本を大切にしながら、固定観念にとらわれずに見直していく。その姿勢が、次の世代へ確かに受け継がれている。そう感じられた講習会でした。酒井先生、東京都洋菓子協会の皆様、ありがとうございました。

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